文部科学省委託事業の背景

(1)学校卒業後の障害者の学習機会が健常者との比較において乏しいこと

○ 学びは、すべての人々にとって、学校を卒業した後も、あらゆるライフステージでの夢や希望を支える役割を担っているものです。学習、スポーツ及び文化といった、就労や日常生活の時間とは異なる、生涯を通じて人々の心のつながりや相互に理解しあう土壌となり、幸福で豊かな生活を追求する基盤となっていくための学びは、障害のあるなしを問わず、すべての人にその機会が開かれたものとなる必要があります。

○ 健常者であれば、自治体だけでなく、民間によるサービスも含めて多様な活動が実施され、必ずしも行政の支援を受けなくても、これらに参加することができます。また、障害者であっても在学中であれば、学校活動の中でこれらの機会を得られますが、大学等への進学も限られる中、学校を卒業してしまうと、こうした機会自体が少なくなります。このことは、 障害の程度が重く、自立した生活の難しい障害者ほど顕著です。

  • (参考1)障害をもつ人を主たる対象とした生涯学習事業を実施している自治体数:145/1119(12.9%)
  • (参考2)高等部卒業後の大学・短大・高等部専攻科への進学率:0.4% (18歳人口に占める大学・短大への進学率:56.8%)

(2)障害者が社会生活を自立して送るためには学習を継続する必要があること

○ 今後の変化の激しい社会において、一人一人が社会で自立して生きるためには、生涯を通じて必要な学習を行い、資質・能力を高めていく必要があります。このことは、障害のある人にとっても同様であるだけでなく、むしろ、障害者の特性を踏まえれば、学校段階で身に付けた資質・能力を維持・開発・伸長することはもとより、生涯の各段階で必要な学びの場を持ち、実生活に生かすための適切な支援を受ける必要性は、健常者よりも格段に大きいと言えます。

○ 障害のある子供たちに対しては、学校教育段階から将来を見据えた教育活動(自立活動 やキャリア教育等)が展開されていますが、学校卒業後も社会生活を自立して送るため、学校で身に付けた資質・能力を維持し、実生活や実社会の場面で実践できるようにするとともに、更に各ライフステージで必要な学びを継続し、実践につなげていく必要があります。 そのためには、特別支援学校等と、企業や障害者支援施設等、高等教育機関といった卒業後の進路や生涯学習、教育、スポーツ、文化、福祉、労働等の関係機関・団体等とが、 密接に連携することにより、多様な学習機会を充実し、継続的に支援していくことが必要ですが、このような学習の機会は、きわめて少ない現状にあります。

○ 例えば、高等部までは、教育課程として、健康の保持やコミュニケーションなどの「自立活動」を実施していますが、卒業後にそうした活動を継続して行う学びの場は少ない現状です。このため、高等部までの過程で身に付けた資質・能力自体がその後低下するケースもあると指摘されています。

○ また、高等部では、社会や保健の授業などを通じて、自立して社会生活を営む力を育むこととなっています。特に、高等学校の次期学習指導要領(平成29年度中に改訂予定。平成 34年度から年次進行で実施)では、「自立した主体として、他者と協働しつつ国家・社会の形成に参画する力」等を育む共通必履修科目「公共」が設置されるとともに、「保健」 について、健康・安全についての総合的な力を育成する観点から改善が図られる予定です。<この動向を踏まえつつ、高等部における内容の取扱いが検討予定> 「公共」や「保健」などで学ぶ個人や公民としての社会生活に関わる内容については、 高等部3年間でしっかりと指導を行うだけでなく、障害者の特性を踏まえ、その後の実生活にも即しながら、ライフステージ全体を通じ必要な学習を継続的に行う必要がありますが、 こうした観点からの障害者の学習機会はきわめて少ない現状です。 併せて、各ライフステージを通じて、キャリア発達を促進することを重視し、社会的・ 職業的自立に向けて必要な資質・能力を開発・伸長していくことも必要です。

 

(3)障害者権利条約の批准等や2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機に共生社会の実現への取組が必要であること

○ 平成26年の障害者権利条約の批准や、平成28年4月の障害者差別解消法の施行とともに、2020年東京オリンピック・パラリンピックを大きな契機の一つとして捉え、障害者が地域とのつながりを持ち、様々な人々と共に助け合い支え合って生きていくととも に、障害のない人にとっては、障害のある人との交流や学びの場に積極的に参加するなど、社会における「心のバリアフリー」を推進し、共生社会の実現につなげていくことが必要です。

文部科学省委託事業の方向性

○ 上記を踏まえ、学校卒業後の障害者の学習活動について、「求められる学習内容は何か」「どのような体制で実施すべきか」等を明らかにしつつ、地方公共団体をはじめ多様な主体に求められる方策を提示することが必要です。

出典:文部科学省 学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業
「障害者の多様な学習活動を総合的に支援するための実践研究」実施要領 別紙1「事業の背景等について」