これから学びの場をつくる人たちへ。
障がいのある人たちは、こどものように 小さい世界で 生きている人が
多くいます。
だから、少しでも世界が拡がるように、
いろいろな人と出会えるドアを開けてもらえたらといいなと思います。
(第4回関係者ミーティング:「学びの会☆大反省会」での百瀬さんの言葉)
社会(地域・福祉・企業の連携システム)が支える、
学校教育終了後から生涯にわたる継続的な学びの実践研究事業
〜コミュニケーション経験を基盤とする生活・就労支援プログラムの構築〜
背景と経緯
本事業は、当団体が2015、2016年度に実施(NPO法人格取得前に、任意団体「ままのがっこ」の名義で実施している)した、特例子会社を対象とするアンケート調査及び、進路勉強会での保護者を対象とするアンケート調査を出発点として、障がい者の生涯学習の場づくりに挑戦する事業を2018年度から実施しているものです。
2018年度は、当団体が行った調査結果からわかった、「自立した生活・就労」に向けて特別支援学校で提供される学びと、当事者を取り巻く企業や地域社会の側から必要とされる要素の間にあるギャップを元に10のテーマでプログラムを組み立て実施しました。
そこで得られた成果をもとに、2019年度はさらに参加当事者の学びのニーズに合わせてプログラムを組み立て、実施しました。
そして2020年度は、さらに見えてきた要素を加味し、
・当事者意見をふんだんに反映したさらに主体性のある学びの設計
・多様性豊かなコミュニケーションから相互に学ぶ設計
・学びのレディネス(準備:詳細後述)を醸成する場の設計・運用
・地域・企業、各々の目的とバランスをはかって支える学びの場「超大学(仮)」構築の可能性
を重点テーマとし、参加者を障がい当事者に限定し主体的に学ぶCLOSED講座と、多様な人たちとのコミュニケーションから相互の学びを誘発させるOPEN講座、さらに「超大学(仮)」の取り組みを通して企業との連携をはかること、地域内の障がい者支援団体からなる関係者ミーティング(連携協議会の同等組織)での実践共有や情報共有をいかし、「地域の連携でつくられる学びの仕組みモデル」の提示に向けアイディアを練る計画を立てていました。
練馬区は、昭和52年から始まった心身障害者青年学級が現在においても障がい者の学びの場を担い、障がい者の社会参加に向けては福祉施策を積極的に展開している地域です。
「障害者の学校卒業後の学び」に該当するものには、生活の状態や障がい区分などに応じて分かれる心身障害者青年学級4学級や、区内4か所の障害者地域生活支援センターが定期的に実施しているプログラム講座やイベントなどがあり、文化・芸術に関する活動から生活・仕事に関する様々な学びの機会等があります。
さらに区内では、地域でのマルシェや区内に点在する情報相談ひろば、まちづくり団体が展開しているカフェなどで、障がい分野という立場を超えた地域住民・地域活動団体としての交流やその機会が増えている傾向にあります。
しかし、新型コロナウィルス感染症の発生・感染拡大により、人の移動や人が集まること自体に制限がかかると、4月の緊急事態宣言下で、こうした練馬区(行政)の既存事業はやむなく一時停止の状態になりました。
こうした事態により『障がい者の学び』が停滞してしまうと同時に、わたしたちの計画の前提となる環境や条件も大きく変わることになりました。『新型コロナウィルス感染症』『緊急事態宣言』『3蜜』『ソーシャルディスタンス』など、次々に新しい言葉が飛び交い多量の情報が錯綜する中で、自分や他の人の命を守るための適切な情報や学びを得られないまま、孤立する人。マスクや紙類が不足になり、パニックになる人もいた。こうした事態は『学びは不要不急のものか?』との新たな問いを投げかけました。
わたしたちは、「こんな時だからこそ学びの機会が必要だ!」と考え、手探りながらも活動を継続する方向に舵を切っりました。緊急事態宣言発令前、まずは新型コロナウィルス感染症について情報を整理し、みんなで不安に思うことを出し合い考える機会をつくることから始めました。
マスク不足への不安に対しては、自分たちでもつくれるようにと布マスクづくりにチャレンジしました。移動が制限されることを見据えてオンラインによる活動も取り入れました。
普段から、リアルの場だけでなくSNSを活用したコミュニティをつくっていた(学びの一環としてスマホの使い方も学んできており、日頃からLINEでつながりあっていた)ことで、場所を超えてつながることができていたおかげで、『オンライン』という手法への抵抗が少なかったように思います。
プログラム実施報告
当事者が、自らの生活や仕事から生じた疑問をもとに、当事者同士が安全な環境下で学びを深める「CLOSED」プログラム、障がいの有無をこえて、地域のなかで多様性ある環境で相互に学びあう「OPEN」プログラムを、当事者たちが中心になって組み立てから運営までを展開するためのモデル化に取り組みました。
さらに、地域や大学、企業と連携したフラットな学び場「超大学(仮)」の構築にも引き続き挑戦し、モデル化への収穫を得ました。当初予定していたプログラムとの差し替えは発生したものの、コロナ禍でも足を止めず、オンライン活用の要素を加えたことで、新たな知見を得ることができました。
1.CLOSED:当事者の主体性を重要視した学びのプログラム
主に就労中の知的障がい当事者2~6名とともに開発・運営したプログラムです。
2.OPEN:地域と連携したコミュニケーション機会の創出と、そこからの学び
他者との違いやコミュニケーションから相互に学びあう趣旨から、対象者を限定して設定していません。障がいの有無や区分、程度、年齢も問いません。それによって、異質で多様性豊かな「他者」から学ぶ機会が飛躍的に拡大すると考えています。2020年度はコロナ禍により、オンラインを活用して、場所や時間をも超えて、いろいろな人とのコミュニケーション機会を生むためのプログラムを実施しました。
参 考
※NPO法人格取得前の任意団体「ままのがっこ」として実施した特例子会社を対象とするアンケート調査及び、知的障がいのある子どもの保護者を対象とするアンケート調査等による調査結果
① 就労にかかるライフスキル
- 就労の現場において、異性間、同性間、上下関係などの対人関係や金銭管理などが大きなトラブルとなって表面化しており、就労を継続する妨げとなっています。その背景として、他者の力を借りながらワークライフバランスを保つ行為の不得手さが推察されます。
- 企業が障がい者に求める要素と、学校教育が提供している学習内容がミスマッチを起こしています。就労にあたり根源的な考えである、就労の意義への理解や労働意欲を企業が求めるのに対し、学校では実習を通じたスキルアップが中心となっています。
【参考】東京都内の特例子会社86社に対するアンケート調査(回答率60.8%)より一部抜粋
Q.就労に向けて小中学校・高校(高等部)等の教育機関に期待される事をお聞かせ下さい。
- 入社した事がゴールではなく、長く働いていく事が重要です。社会に出る前に何を準備するべきかを考え、テクニカルスキルだけでなく、人間力を培う事が大切です。様々な経験が積めるような取り組みが必要だと思います。
- 業務知識やスキルよりも、まず社会性を身につけさせて欲しいです。
- 働く事について理解できるような教育を希望します。
- 主体的に考える事ができる教育を行っていって欲しいです。
- 社会的自立へ向けて、会社が立ち入りにくい、障害年金、性、恋愛、金銭管理等も積極的に教えて欲しいです。業務はまじめで意欲と体力があればスピードは遅くとも習熟できますが、私生活での自立に関して、社内で育成する体制は整っていないのが現状です。
- 障がい者各人が、自分の障がいの特性をよく理解し、各人が得意としている事を伸ばすような教育をお願いしたいです。
② コミュニケーション
- 障がい者は学校教育やその時期の生活空間が閉ざされた環境にあることが多く、その力を培う機会が圧倒的に欠如しています。共生社会の実現に向けて、リアルな社会の中で、実際に多様な人と関わり合いながら、より早期から、より多くその機会を持つ必要があります。
- 地域住民にとっても、日常生活で障がい者と出会う機会は少ないと言えます。健常者、障がい者双方が自然と交わり、その結果として地域社会の受容性が育まれる機会を持てていない現状となっています。
③ 権利保障
- 健常者にとっては当たり前に有する機会も、障がい者にとっては仲間に会う事さえ容易ではない事がわかっています。
- 進路勉強会に参加した保護者から、多様な進路の選択(さらなる学びの機会の選択)を望む声が上がっています。
【参考】小・中・高等学校及び特別支援学校のいずれかの教育機関に知的障がいを持つ子どもが在籍している保護者71名に対するアンケート調査より一部抜粋
Q.お子さんの進路について、保護者としてお考えになる事をお聞かせください。
- 一人ひとり個性があるにも関わらず、高校・高等部卒業後は就労という大きな流れに疑問を感じます。
- 高校2年なると体験自習も有るが、どのように決めて実習を受けていけばいいのか、わかりません。また、高校3年生なると進路を決めなければ行けない事は、とても早すぎて大変だと思います。
- 今、一番に強く感じている事は、高等部を卒業した後の就労の事ですが、思っていたより選択の幅が狭く、子どもの現状ともあわせて、厳しさを感じています。
- 18歳になったら 就労するしか道はないのでしょうか。親としては、もう少しゆっくりと学ばせてあげたいと思います。
- 高校卒業後は、就職。それ以外の選択肢が増え、自分がやりたいことを見付ける機会、時間が増えると良いと思います。
- 高等部卒業後の進路として、すぐに就労、施設入所などではなく、2年なり4年なり、さらに学ぶ機会を作って欲しいです。
- 高等部卒業後すぐに就労ではなく、学びの場の選択肢が増えるといいと思っています。